第8回:いなばのしろうさぎ(君津)

素材の味で勝負する店主渾身の一杯を前に己の味覚と対峙する店

きなラーメンはどんなラーメンか?とたずねられた時、誰もがそのスープの味について言及するだろう。醤油、味噌、あるいは塩など、各々が思い描く好みの味。しかし、そのどれにもあてはまらないラーメンがあるとしたら、あなたはその味を想像出来るだろうか。

 君津の「いなばのしろうさぎ」にそのメニュー「うさぎ」はある。具が一切乗らず、そこにはただ麺とスープがあるのみ。しかもそのスープには醤油や味噌といった味が一切ついていない。千葉の地鶏「上総赤鶏」のガラと「名古屋コーチン」の老鶏をベースに、ゲンコツや野菜に魚介系素材をとろ火でていねいにじっくり30時間煮込んだスープ。素材本来の旨味が出ているスープをストレートに味わって欲しいと、あえて調味料を加えていないのだ。

 その味わいたるや未知の味。調味料に隠されていた深い味わいを探るようにスープを飲む行為は、己の味覚への挑戦でもある。さらに添えられている沖縄宮古島の天然塩を入れると劇的にスープの味が変化する。塩の偉大さを感じる瞬間だ。

 調味料なしでスープを飲ませるためには、全ての工程に手が抜けず一切の妥協も許されない。美味しいラーメンを生み出すには、それ相応の手間がかかり原価もかかる。しかし一方でラーメンを恒常的に商品として成立させるためには、生産効率をよくしたり、ある程度の原価率まで抑えたりするのは至極当然のことでもある。しかしこの店のスープ作りにはその当たり前が存在しない。店主自身が美味しいと感じる最高の味を求めてスープを作る工程に、店側の論理が入り込む余地は少しもないのだ。

 この店のスープは食べ手の舌に挑戦するスープであると同時に、作り手自身にとっても、素材の旨味を引き出す技術とラーメンにかける情熱が試されているスープでもあるのだ。