第20回:13湯麺(五香)

サンバの流れる空間でお酒とともに楽しむ「具のない」ラーメン

のないラーメンがある。ラーメンといえば、チャーシューやメンマ、味玉などの具が乗ったものが一般的である。しかし世の中には「かけそば」のように、麺とスープだけのラーメンも少なからず存在する。五香の人気店「13湯麺」の看板メニュー「湯麺」もそのひとつだ。

 ラーメン職人にとって、具を一切乗せないということは、実に勇気の要ることである。具の乗らないラーメンの場合、客の意識は当然麺とスープのみに注がれることとなり、よほど麺とスープがしっかりしていなければまず客は満足しない。つまり具のないラーメンを出す店は、言い換えれば麺とスープにかなりの自信を持っている店だと言えるだろう。

 店主の松井さんは、食品会社で長年麺の開発研究に従事してきた経歴を持つ、業界屈指の麺の達人である。毎日営業前に打ち、冷蔵庫で3日間熟成させてから使うという自家製の細麺は、おどろくほどにしなやかで、かつしっかりとした弾力を併せ持っており、同業者も思わず唸る麺だ。その麺と合わせるスープは、備長炭で雑味を取った水を使い、鶏のうま味をていねいにとったもの。透明ですっきりした極上スープは、鶏油の自然な甘みが程良く含まれていて、一口ごとに味わいが深くなっていく。その味わいは具がないからこそたどり着ける未知の領域。そして麺とスープ以外、唯一薬味として使われているのは、地元松戸産の「矢切ネギ」。毎朝採れたての無農薬ネギが、この繊細なスープにほのかな香りと甘さを加えている。ネギを変える前の味も知っているのだが、驚くほどにこのネギひとつで味が変わるのだから、いやはやラーメンとは恐るべし。

 まずは店主お薦めのブラジルのスピリッツ「ピンガ」を、ライムなどと一緒に楽しむカイピリーニャで頼み、角煮や青菜炒めをつまみに酒を愉しむ。ほろ酔い気分になった頃に、サンバのリズムに乗って手際よく作られた湯麺を味わう。これこそ大人のラーメンスタイルなのだ。