第29回:房総つけめん(上総一ノ宮)

ゆったりと時が流れる一宮の黄昏時に味わうなめらかな自家製麺

房線の上総一ノ宮駅。千葉から快速列車で40分程度の小旅行でたどり着けるこの駅から歩いて10分、地元で愛され続けている一軒のラーメン店がある。「房総つけめん」−その名の通り、つけ麺を看板メニューに掲げる店だ。

 今でこそつけ麺専門店という存在も珍しくはなくなってきたが、15年以上も前から、つけ麺を主役に据えた、店名に掲げた店が上総一ノ宮にあったというのは正直驚きだ。ご主人の齋藤さんは都内の製麺所で製麺に従事していたが、独立し地元である一宮で地元のラーメン店などに麺を卸す製麺業を始めた。しかし「中華そば」がいずれは飽きられると思った齋藤さんは、当時はあまり知られていなかったつけ麺に目をつけ、自分でつけ麺の専門店を立ち上げようと思ったのだそう。その先見の明たるや素晴らしい。そういう経緯があるので、当然のことながら麺は自家製麺、もっちりしてしこしこした食感の麺は、一度食べたら忘れられない強烈な存在感を持っている。県内でも有数の麺といっても過言ではない出来映えだ。毎日肌で感じた気温や湿度でかん水や水の量を変えて麺を打ったり、茹で時間を調整する。

 また自慢のチャーシューは良質のモモ肉を茹でてアクを取り、表面をていねいにフライパンで焼き上げる。麺も具も一つ一つの仕事に手間がかかるが、手間をかけなければ美味しいものは出来ないと齋藤さんは断言する。何か楽をしようとすれば、当然それは味に跳ね返ってくるのだと。その考えを持ってこれまでずっと営業をしてきたのだそうだ。

 メニューには自慢のつけ麺の他にもラーメンや丼もの、カレーライスまで並ぶ。いわゆる食堂のようなメニュー構成になっているが、この店を見た目で判断してはいけない。町中とは違った一宮ならではのまったりした空間で喰らう存在感のある自家製太麺。羊の皮を被った狼、このギャップがたまらない。これこそ東京では決して味わう事の出来ない、千葉ならではのラーメンスタイルなのだ。